DV加害者の生態が詳しく書かれているすごい本 [ココロの医療]
仕事上DV(ドメスティックバイオレンス:家庭内暴力)被害者の話を聞くことがあります。
でも、DV加害者が自ら相談の場に現れることはとても少なく、私も直接会って話したことはありません。
この本の著者のランディ・バンクロフトはアメリカのDV加害者専門カウンセラーで、2000件を越すケースを経験
したそうです。
それらの経験で得られた知見をもとに、この本は書かれました。
DV被害者がどのように人間としてダメージを受けるかについてはすでにいろいろな書籍が出版されていますが、DV加害者の生態について書かれた本は私の知っている限りでは2冊目です。
非常に興味深く、一気に読みました。
さまざまな思い込み、偏見があるのだなと思いました。
青字:本文から抜粋して引用
虐待は、考え方と価値観から生じるもので、感情によるものではありません。根元が所有意識で、幹が特権意識で、枝がコントロールという行動です。 加害者は虐待をやめようとしないのであって、やめられないのではありません。力と支配を失いたくないのです。
私は依存症的な意味合いもあるのだと解釈していたのですが、いわゆるアルコール、薬物依存症とは違う要素があると書かれていました。
>DVと依存症の類似点 ・エスカレートする ・否定、矮小化、責任転嫁 ・自分を肯定してくれる仲間を選ぶ ・嘘で人を操る ・予測できない環境を作る ・家族のそれぞれの役割を決めつける ・回復の兆しがみえてもまたもとの状態に戻る確率が高い
エスカレートすることや、否認が強いことは想像がついていましたが…
DVと依存症の相違点 ・DV加害者は「どん底まで落ちない」 ・短期の効果と長期の効果 ・DVを容認する社会
アルコール依存症では、いわゆる「底つき」体験(自分の問題を否定しようにも否定できないくらいまでどん底の状態になる:失業、孤独、健康問題)が回復の始まりだと言われます。
DV加害者は、他人に対しては非常に破壊的ですが、自分に対してはとくに破壊的ではありません。女性への虐待を繰り返しながらも、堅実に仕事をしたり、専門的なキャリアを積み上げたりして、経済的にも安定し、友人や親戚の間でも評判がいいという加害者はたくさんいます。
アルコール依存症は否認の病だといわれています。
底をつくまでは、周囲の人間がどんなに手を差し伸べようとしても、何にもなりません。
それくらい否認の力が強いのです。
それが、DVの場合は、上記の理由で底をつくことが少ないのだとすれば、
自分の問題を認める可能性は極めて低くなります。
そういう意味では、加害者が変わる可能性もとても低いということになります。
しかも、アルコール依存症であり続けることで、失うものはたくさんあるけれど、
DVを行い続けることでは失うものは少なく、長期にわたり支配欲を満たせるなど、得られることばかりだということになれば、
加害者が自ら問題を見つめることは期待できません。
そのことがより明確になった気がします。
もうひとつ興味深い記述がありました。
虐待をされている女性は「共依存」(訳注:自分よりも身近な他人(配偶者、親族、恋人、友人など)の問題に関心を向ける人間関係そのものへの依存)ではありません。虐待が起きる関係性を作るのは加害者であって、被害者ではありません。
自分の尊厳を守ることができない女性の側にも問題があるのだと思っていました。もちろん2人が出会う前からその状態だった女性もいると思います。
しかし、もともとその傾向がなかったとしても、DV加害者の破壊的な支配欲で、尊厳を失ってしまうことはあるのだなと思いました。
加害男性は女性の自己価値をおとしめ、彼女の成長を阻害し、他の人々との人間関係を壊し、さまざまな形で脅します。これらすべてを絡み合わせて、彼女が彼を必要とするようにしむけていきます。
これをトラウマ性結びつきと言います。
この結びつきができると、加害男性に対して感情的に依存しがちな状態になり、その状態は周囲からは女性も依存的だし、女性にも問題があるというように見えるのだろうと思いました。
DVに関わりのある人にはぜひご一読を勧めたいです。
タグ:DV
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